++歴史書懇話会++

読売新聞 2007年5月4日朝刊【文化欄/歴史】
読売新聞 2007年5月4日朝刊【文化欄/歴史】
【記者ノート】
『20世紀の歴史家たち(5)日本編 続』今谷 明・大濱 徹也・尾形 勇・樺山 紘一編/定価2,940円(税込)/刀水書房
*本書の詳細は下記をご覧ください。(協力:紀伊國屋書店)
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網野善彦がこだわり続けた男/「あれは網野さんの絶筆ですよ」。国民的人気を誇った網野善彦(2004年2月死去)と親交の深かった編集者に紹介されたのは刀水書房『20世紀の歴史家たち(5)日本編 続』(昨年12月刊)に掲載された評伝「清水三男」だった。清水光男。1909年、京都の旧家に生まれ、京都帝大で国史を専攻。日本共産党と接触したことが問題となり、38年治安維持法違反容疑で逮捕。釈放後転向し、43年に召集令状が届くのと相前後して『素描祖国の歴史』『ぼくらの歴史教室』を書く。…47年1月、清水はシベリア抑留中に病死した。この評伝が脱稿したのは2001年9月23日。網野が半分執筆した中央公論新社の『日本の中世6 都市と職農民の活動』は03年2月の刊行だから、絶筆というならおそらく中公本の方なのだろう。…網野は最晩年、清水のことばかり口にしていたという。なぜ、それほどまでにこだわったのか。評論家の久保隆氏は「図書新聞」3月10日号で、この評伝を取り上げ、<網野が語る清水三男像>は、自身の自画像のようなものだ>と記している。…日本中世が、戦後ずっと信じられてきた「農村中心の自給自足経済」などではなく、実は商業・流通が活発な都市の時代であったという現在の歴史学における潮流の原点は清水にある。共通する歴史観を持つ網野は癌を患ったこともあ、戦時下死期を悟ったかのように著書を出し続けた清水に傾倒せずにはいられなかったのだろう。脱稿後5年余、死後3年近くを経て発表されたこの評伝は、まさに網野の魂の叫びであり、絶筆の名に値するのではないか。(片岡正人)

*網野先生が亡くなられたとき、刀水書房の中村さんが涙をこらえながら、「戴いたお原稿を本にしてお見せすることができなかったのが残念でならない…」と、語られていたことを思い出します。彼女はこの本の編集もされていました。歴史書懇話会ではこの『20世紀の歴史家たち(5)日本編 続』を中心に、「歴史家と歴史学のフェア」リストを作成しました。リストは当会のホームページの「本の探し方・テーマリスト」に掲載してあります。ぜひご覧ください。
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2007年05月04日(金) No.38 (新聞書評)

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